最先端の半導体を巡る2つの考え方/異なる考えの2冊の本を読んで考えたこと
我が国が力を入れている最先端の半導体振興策が、国立の半導体企業ラピダスである。ラピダスは、アメリカのIBMが開発した最先端の2ナノ半導体の技術を採り入れて、北海道の千歳市に最先端の工場を建設している。すでに高価な製造装置が200台以上搬入されて、試作が始まっている。2027年11月に量産開始の予定である。この工場建設にすでに2兆6000億円もの国費が投じられることが決まっている。
ただし、ラピダスはそれまでの日本の半導体工場とは違って「プロダクトアウト」ではない。作ったチップをお客さんのメーカーに売りに行くのではないのだ。日本の半導体メーカーは、ほとんどが大手総合電機メーカーの一部門だったため、まず自社の完成品である家電や通信機、コンピューターなどに搭載される部品として使われ、さらに他社の家電や電子機器に使われるようになった。
しかし、ラピダスはそれとは異なり「マーケットイン」の事業構造にある。半導体の製造の受託サービス業なのである。つまりお客さんが先にいて、そのお客さんが外注先としてラピダスに製造を委託する、というビジネスモデルである。
「ファウンドリー」と呼ばれるこの生産方法は台湾のUMCやTSMCで花開き、やがて世界に広がっていった。いまではアメリカのグローバルファウンドリーズ(AMDとIBMの半導体工場部門を統合)や、巨人インテルにも広がっている。
ここで欠かせないのは、大口顧客である。とりわけ工場稼働の初期には、歩留まり(良品率)という半導体産業ならではの〝経営指標〟を向上させていかないといけない。
ただ作ればいいのではなく、いかに大量に良品を作るかがポイントである。単に最先端品を作ればいいのではなく、大量に良品を作って、それによって生産コストをいかに下げるかが半導体製造を成り立たせる尺度となる(半導体産業は、設備投資と研究開発投資が巨額なので、生産効率を高めるのが宿命である)。そのために大口顧客と一緒に製造ラインの歩留まりを向上させる試行錯誤を繰り返していく。TSMCにとってはiPhoneのアップルがそれだった。
最近読んだ『激変するAI時代の日本半導体・機械産業の逆転戦略』(2026年、幻冬舎)で共著者の井上弘基氏(機械振興協会名誉フェロー)は「そもそもファウンドリー事業は製造の受託サービス事業であって、工場という受け皿を作れば自動的に受注が集まるわけではない」(p5)と指摘している。ファウンドリー事業を成り立たせるには、工場稼働の初期の不安定な状態を順調な軌道に乗せるため、大口優良客「ティーチングカスタマー」の意見や要望が欠かせない、という。そうした大口客の「改善」要望が工場を良くしていくわけだ。
さらにTSMCやサムスン電子の周囲には、そうした大口顧客の半導体設計を支援する設計会社やIP提供事業者がたくさん存在し、製造に至るまでのエコシステムが成り立っている。協力会社や下請けのようなものがたくさんあるのだ。愛知県におけるトヨタ自動車を頂点としたエコシステムを想起してほしい。
先発企業にはそうした土壌があるのに、後発のラピダスにはそうしたものはない。いまからイチからそうした生態系を作っていかなければならない。

対照的な2冊
同じく最近読んだ片岡利文氏(NHKエグゼクティブ・ディレクター)の『ラピダスに勝機あり』(2026年、ビジネス社)では、井上氏のような視点はない。副題にある「1兆円を託された男」であるラピダス社長の小池淳義氏との個人的なつながりを重視して、彼のサクセスストーリーを描くことに終始した内容だ。
ラピダスが追求するのは平面の半導体を細く小さく作る微細化だが、平面で微細化を追求する路線とは違うテクノロジー・ドリブンが昨今話題になっている。平面ではなく、立体的に積み重ねる垂直方向の高集積化である。平面で小さく作るのではなく、立体的に積み重ねることで集積度の向上を図るという、従来とは違う考え方である。
井上氏は前掲書でこう説く。
「細くて小さければ何でもいいというわけではない(中略)とりわけ昨今ますます垂直(3D)方向の高集積化技術が、微細化より注目を集めており、メモリー(キオクシア)もイメージセンサー(ソニー)も、世界最先端の高集積化技術を実現している」(p74)
そのときに重視されるのが、ひとつのチップパッケージ内(場合によってはボード上)にいろいろなチップを混載させて積み上げていく「チップレット」というものにしていく技術である。
こうした工程は従来は、半導体製造の中では「後工程」に分類され、微細化などの「前工程」に比べると、先端的ではない(その分、価値が劣る)製造工程と考えられてきた。ところが「チップレット」が登場すると、そうではなくなかった。チップレット化していく技術は、そう簡単ではないからだ。
従来は同じプロセスノード(10ナノだったらすべて10ナノ)に統一して複数のチップを混載させていたが、いまはそうではなく、いくつもの違うノードのチップを混載する方式が実現している。それだけに作り込むのが難しくなっている。
こうしたチップレット化で先端を行くのもTSMCで、日本ではソニーである。チップレット化に必要なサプライヤーとしては、岐阜県のイビデンが重要なメーカーとして一躍注目を集めている。ほかにも新光電気やブイ・テクノロジーなどこの分野に絡む日本企業は少なくない。
ラピダスのようなやり方以外にも日本の〝勝ち筋〟は存在することを先の前掲書は教えてくれる。160ページ弱という分量なので簡単に読める。半導体産業に関心を持たれる方は、支配的な思潮とは別のオルタナティブな考え方を知る上でも手に取ってみてはいかがだろう。
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