KADOKAWAの悲劇⑧/歴彦の老化

東京・飯田橋駅のそばにあるKADOKAWA富士見ビルには、角川歴彦の暴走の傷跡がしっかりと残っている。ミシュラン二つ星のレストランにしたものの、あっけなく閉店に追い込まれた本社最上階である。
大鹿 靖明 2026.10.11
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 KADOKAWAの本社のある富士見ビルの9階にレストラン「イヌア」がオープンしたのは2018年6月のことだった。デンマークのコペンハーゲンにあるレストラン「ノーマ」のシェフであるトーマス・フレベルを呼び寄せて、本社の最上階に眺望の良い60席のレストランを開いたのだった。

 角川歴彦が2015年にノーマを訪れた際に「その理念に共感した」というのが誘致の理由だった。2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されるのにあたって、世界中から訪日客が見込まれることが、本業の出版や映画などコンテンツ事業とは程遠いレストラン事業に参入する決断を促した。歴彦の頭の中にあったのは、このころすでにオリンピックだったのである。

 大して食通でもない歴彦が高級レストラン事業を始めることに、社内からは当然、懐疑的な声があがっていた。「あの人はランチもカレーライスで済ます。全然グルメじゃないんです」と元社員は言う。しかも、こう付け加えた。「社員を連れて行くときも、あれだけ大金持ちなのに、1000円のランチも必ず割り勘なんです」。吝嗇家ではあるが、美食家ではない歴彦が、「世界のベストレストラン50」で世界1位(2010~12年、2014年)に輝いたノーマの実績に幻惑された。

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